夏山定着合宿報告
期間:2000年8月3日〜10日
山域:剣岳東面
参加者: 安倍 健太郎(4年、CL)、松尾 慶孝(久留米大2年、SL)、大山 千聡、船越 陽(1年)

行動記録:
8月3日 (晴)  入山
:00室堂→10:00雷鳥沢10:15→12:45別山乗越13:00→13:45剣沢テント場(T.S.)【18:40松尾到着】
縦走にも参加した一年生と富山駅で合流。共同装備をボッカ分けしていると松尾が岳人の魂ピッケルを無くしたと言い出す。松尾は富山でピッケルを購入することとし、残り三人で先に入山することにする。剣沢で合流することを約束し、松尾の共同装備をみんなで分け出発する。室堂に着くとやはり涼しい。雷鳥沢までの道を間違えるが、あとは特に問題なく登りもクリア。不安視された大山も歯を食いしばり頑張っていた。剣沢でテントを張って飯を作って松尾の到着を待つ。剣沢から見る剣岳はなんとも威圧的であり恐怖すら覚える。テント受付の際、計画書の提出を求められ、山岳警備隊の方からルートの注意を受ける。八ッ峰のTU峰間ルンゼの状態が悪くガイドも撤退したとの話を聞かされ不安になる。暗くなり飯も冷えかけた頃松尾が到着。
 

8月4日(晴のち曇り)  雪訓 【歩行練習・ピッケルストップ】
4:00起床5:10発→5:25雪訓場12:40→14:15真砂沢(B.C.)
テントを撤収してから雪訓をすることにする。雪訓場はテン場から少し真砂方面に下った斜面。上部が多少ガレておりあまりよろしくない。雪訓は最初はだらけていたが、後半は気合いの入ったいい訓練が出来たと思う。船越が仰向け逆さに失敗して強烈なドロップキックを安倍に食らわす。
 

8月5日(晴のち雷雨)  源治郎尾根
4:00起床4:55発→5:45平蔵谷出合→8:45源治郎T峰(9:15松尾隊合流)9:25→10:15 U峰→11:45剣本峰
→12:35長次郎のコル→14:45 B.C.
アプローチは2年前と同じく左の尾根を使う。先行パーティーが多く、松尾が昨年ルンゼから行ったらしいので途中から追い抜こうと色気を出してルンゼを使ってみるが、濡れていて傾斜が強く嫌らしいので結局トラバースしてスタカット1Pで尾根に戻る。ここから安倍−大山、松尾−船越でコンテを組んで進む。U峰の先の懸垂点で20分ほど待たされる。今日は源次郎には4、5パーティーくらい取り付いていた。剣岳山頂で記念撮影をする頃から雲行きが怪しくなり出発する頃にはポツポツと小雨が降り出した。一年は疲れているようで大山の動きが不安定である。長次郎のコルでどしゃ降りの雷雨となり、時間的にも三の窓経由で下るのは無理と判断し長次郎左俣を下る。途中細くなっていたので熊ノ岩の上をトラバースし右俣に入りほっと一安心。BCに帰る頃には雨も上がる。
 

8月6日 (快晴)   雪訓【確保】
4:00起床4:45発→6:50雪訓場15:10→16:10 B.C.
雪訓にはもったいないくらいのド快晴。六峰フェイスに大学山岳部らしきパーティが見える。雪訓場は2年前と同じく熊の岩付近の源次郎尾根側の斜面。隣りでは金沢大学山岳部も雪訓している。聞いたところ部員は3年生一人と1年生一人だけだそうである。帰るころにまた夕立にあう。午前中晴れ、午後から雨というパターンはずっと続いた。
 

8月7日(晴のち雷雨)  八ッ峰下半〜上半(ビバーク)
4:00起床4:50発→5:20TU峰ルンゼ出合→9:10 VWのコル→11:05X峰→12:45 XYのコル→14:00Y峰14:40→15:30 クレオパトラニードルのコル16:00ビバーク決定
TUルンゼ出合を慎重に通過する。ルンゼをそのままつめるのは雪渓の処理が大変そうなので左、左に巻いていく。途中からものすごい藪コギとなり朝露で全身・靴の中までびしょ濡れとなる。やっとこさ稜線に出てみると時間は9時過ぎ。ビバークでなければ上半は無理だった。5峰からの下りで非常に手間取る。ちょうど5,6のコルに着いた時に雨が降り出す。松尾が5,6からのルートが分からなくて不安そうなので安倍−大山で先行する。6峰の頭で待っていても松尾は一向に姿を現さない。船越が一人でやってきて、他のパーティに救助を要請されて松尾一人で向かったことを聞き激怒する。結局30分後戻ってくるが、話を聞いてみると懸垂のザイルが引っかかったから取ってくれということだった。その非常識さに怒りが込み上げる。時間が微妙で雨も強くなってきており、7峰からは巻道を使っていく。秘密の抜け道みたいでとてもいい感じだ。クレオパトラニードルのコルに差し掛かるところで雷雨となり、ツェルトをかぶり待機する。雨も止まないことであり、ちょっと手前にいい岩小屋があったのでそこでビバークすることに決定する。日が沈むころには雨も上がり、鹿島槍方面に虹が掛かっている。明日の好天を祈り眠りにつく。
 

8月8日(晴のち曇り後雨)  チンネ左稜線
5:30発→6:25三の窓→7:40取付8:00→13:55終了→15:00三の窓→18:15 B.C.
快晴とはいかないがまずまずの天気。池ノ谷ガリーはたいしたこと無かった。三ノ窓につき一年生をデポして取り付きに向かう。取り付きを探してさまよい歩く事一時間、三ノ窓で「お先に」と言って別れた男女のパーティに抜かれてしまう。1p目が雪で埋まっていて資料の2p目が1p目となる。そうとも知らず安倍リードで登り始める。次第に強くなる傾斜とランナウトにあせりだし、やっとハーケンにたどり着いたと思うとカラビナが穴に入らず、かといってタイオフできる体勢でもなく、泣く泣くさらにランナウト。このピッチ以外は特に問題ないが、つるべの順番的に私のリードのところに傾斜の無いガレ場や1、2級のリッジなどが来て納得いかなかった。先行パーティは我々より速く、T5に着いたときすでに「鼻」を登り始めていた。松尾をビレイしながら登りを観察する。女性の方がリードしていたが核心のハングを越えたかに見えた瞬間、スタンスが大きく崩壊し2〜3m墜落する。その方は動揺されているようで今度は男性の方にリードを交代したが軽々と登っていった。目の前で墜落され嫌が上でも緊張は高まる。約束どおりリードさせてもらう。フリー宣言も早々に放棄し何とか登り切る。ランナーが足りなくなりあせった。その後は傾斜の緩いリッジを3pくらい辿り終了。念願の「クラシックルート図集」にあるピナクル上での写真をとるが、下山後失望させられた。三ノ窓で一年生と合流し三ノ窓雪渓を下降する。一箇所スノーブリッジになっていてアイゼンを着けザイルを出す。大山のアイゼンが故障し非常に手間取る。
 

8月9日(曇り後雷雨)  雪訓【試験】
5:00起床5:40発→7:40雪訓場12:35→13:10 B.C.
昨日の帰幕が遅かったので5時起きにする。スタカットが終わったところで土砂降り&落雷(かなり近かった)。身の危険を感じてコンテの試験は中止にし帰ることにする。恒例の打ち上げはしなかった(すみません)。
 

8月10日(曇り) 下山
5:30発→10:40室堂
ラクで涼しくて近い室堂下山の味を覚えたら、もう黒部ダム下山はできないだろう。富山で山のノートが置いてあるとんかつ屋でかるい打ち上げをし、小川山に行く一年2人を見送る。    (文責   安倍)
 
 

全体反省

☆雪訓
・ピッケルストップの仰向け逆さの際、安全面での配慮が不足していた。一年が失敗してかろうじて体当たりで止めたが、事故が起こってもおかしくな  い勢いであった。最初は緩い傾斜のところでじっくり練習したりアンザイレンするなどの対処が欠けていた。
・一年生や二年生の雪上技術の勉強不足が目立った。体で覚えるもの、という考え方もあるが、最低限の事前学習はしておいて欲しかった。
・コンテの確保の試験が出来なかった。→来年必ずやってもらいたい。

☆ 源次郎尾根
・ショートカットを誤ってからの尾根へのトラバースはきわどいものであった。時間のロスを避けたいという気持ちが強かったが、最も安全な選択はもと来た道を引き返すことであった。間違えたら引き返すというのは非常に基本的なことであるが、その決断をすることはいざ現場ではやはり難しい。何度も同じ反省をしてきたのに同じことを繰り返すのは本当に反省していないからなのか。事故を起こす前にもう一度自分に戒めたい。
・ 源次郎1峰までで安倍-大山と松尾-船越が離れすぎた。
・ 計画では三の窓雪渓を下りることになっていたが、よっぽど早く動かないと時間的に厳しいと感じた。体力、ルートの難易度から考えても源次郎と三の窓雪渓下降のセットは一年生込みでは非常に難しいのではないか。計画の不備であった。

☆ 八ツ峰下半上半-チンネ-三の窓雪渓
・ 稜線に上がるまでの藪漕ぎから安倍トップで行ったが他のメンバーが見えなくなるほど間があいてしまい、(自分はそう感じなかったが)危険な岩場でザイルを出すなどの対処が出来なかった。
・ 懸垂下降のセットに時間をかけすぎである。ザイルが絡まるなど初歩的なミスに加えて各メンバーを効率よく動かすことが出来なかった。
・ 松尾が六峰付近でリーダーの指示なしに単独行動を取ったことについて。夏山だから許されることであって、今後山行中は絶対に勝手な行動は取らないで欲しい。
・ 六峰の下りでザイルを出すべき場所でノーザイルで行った。雨で岩が濡れており落ちたら助からない場所であったが、前記のことで頭に血が上っていて、気が付いた時にはみんな通過していた。今回の合宿で一番危険だと思ったところである。リーダーはこういうときこそ冷静になり、またメンバーも常に危険個所を認識するように努力するべきである。
・ 下級生の概念の勉強不足を感じた。もし上級生が落ちて行ったら自力で帰らないといけないことを考えて欲しい。上級生に頼りすぎないで体だけでなく頭も使って登って欲しい。

☆ その他
・ 一年生の生活技術が全くなっていなかった。特に大山は余計なものを持って来すぎである。
・ 計画を消化していないのに予備日を使わず下山した。理由はリーダーの私的な都合である。合宿でこのような「私的」なものを出すとパーティ全体に悪影響をもたらすことは過去を見ても明らかである。計画を立てた以上それに従って行動すべきであり、無理なら最初から計画しないか参加すべきでない。
 

以上の反省で目立つのはリーダーの位置が適切でないということである。源次郎一峰まで、八ツ峰の稜線まで、五六のコルから六峰まで、のとき安倍がトップで歩いたが松尾パーティとは見えなくなるくらいの間隔が出来た。トップに立った理由はペースが遅いので全体のペースを上げようと思ったからだが、スピードの遅さというデメリットよりもパーティ全体を把握できず適切な対処が取れないデメリットのほうが大きかったように思う。今後の山行では常に全体に目が届く範囲で行動するよう心がけたい。また、他のメンバーにはもっと速く歩くように要望したい。

☆ 総括
冬山につなげる為の最低限の夏山合宿は出来たと思う。一年生はこの経験を今後の山行に生かしていって欲しい。 またリーダー、下級生ともに反省点が出たが、各自がそれらを修正してより強いチームになっていきたいと思う。     (記  安倍)
 
 

個人反省

安倍 健太郎
「常に冷静に」ということがまた達成できなかった。あと、パーティーで同じペースでわいわい登るのは自分の性に合ってないと感じた。もっと協調性を持たなければチームとして機能しないと今は反省している。剣岳は2回目であったがはじめての時よりもなぜか新鮮に感じられ、今思い出してもよかったと思える山行であった。ただ、岩登りが少なかったことが残念ではあった。

船越 陽
1. 雪訓
・ ピッケルストップ
大体出来た。仰向け逆さに多少不安有り。雪訓初日にだらけていてなかなか止める事が出来なかったとき、「気合を入れろ」と言われた。ふざけ半分では危険だということに気づいた。
・ 確保
最終的には上手くいったが、実際に使うときにできるかどうかは不安である。スタカットは足場が問題だろう。制動確保のコツはつかんだ。コンテでのループ突き刺し、府岳連方式はいかに慌てずに落ち着いて処理するかという精神的な問題があるが、上手く確保の体勢まで持っていければ大丈夫だろう。
2. 源次郎尾根
取り付いてすぐのところでザイルを使って岩を登る時に、体勢を崩して落ちてしまった。ルートを間違えて岩をトラバースした時と、久々の懸垂下降をしたときが一番緊張した。それほど疲れることもなかったが剣頂上は曇っていたので残念だった。雪渓では合宿前に走り込んでいたのでほとんどこけることもなく速く走れた。
3. 八ツ峰
3,4のコルに出るまでが大変だった。特に初めてのヤブ漕ぎでかなり体力を消耗した。反省点はザイルをほどくときによく絡まって時間がかかったことだ。末端をはじいておくことを注意したい。またザイルをたたむのが遅かった。ビバークは意地を張ってシュラフを使わなかったので一睡も出来ず後悔した。
4. 全体を通して
なんといってもメットを落としてしまったことが今回の大きな反省点である。(メットは後で見つかった。)また生活技術で個人装備がテント内に散らかって毎日就寝が遅くなってしまった。気をつけたい。
5. その他
疲れてくるとどうしても他人にきつく当たってしまう性格であることを発見した。同じ一年の大山とは上手くやっていこうと思う。あと、緊急時に人から助けを求められたらどのような行動を取ればよいのでしょうか。

大山 千聡
●雪訓
・ピッケルストップ
かたちはだいたいできたと思う。課題はもう少し腕の力をつけること。
・確保
スタカットについてはだいたいできたと思う。スタカットの注意点として、足場をちゃんとつくらないとバランスが崩れて自分も吹っ飛ぶので足場をきちんとつくる必要がある。コンテはセカンド落ちならなんとかなるが、トップ落ちは自信なし。また、スタカットとコンテの両方にいえることだが、制動確保をうまくやらないと自分も吹っ飛ぶ可能性大なので制動確保をきちんとできるようにする必要がある。課題はコンテの確保と制動確保をきちんとできるようにすること。
・その他の反省点
合宿前の学習会で確保のしかたを学んだにもかかわらずほとんど忘れてしまっていた。きちんと復習しておくべきだったと思う。
●源次郎尾根
源次郎1峰までは自分としてはけっこう速いペースで行けたのではないかと思う。安倍さんとコンテを組んでいて、安倍さんに引っ張られるように進んでいった。しかし、2峰からバテはじめた。剣岳山頂を出発した時には足がふらついていた。もっと体力をつけておくべきだったと思う。
●八ッ峰下半−八ッ峰上半
最初の藪こぎはきつかったが気合でのりきって進んでいく。途中危険なところがいくつかあったが、三点支持を意識していたのでたいして問題はなかったと思う。それとビバークはきつかった。シュラフカバーのかわりに持ってきていたレスキューシートは期待はずれであまり役に立たなかった。安倍さんが隣で歌を歌っていたが私は寒くてそれどころではなかった。安倍さんは隣で寝ていたが私はほとんど眠れず寒さと格闘していた。
●全体を通して
体力不足であったことを反省したい。またザイルをたたむのがおそかったので、はやくできるようにしたい。それと野北での練習で何度も安倍さんに三点支持を意識して登るように指導され、三点支持で登る練習をしてきたが、ロングランを通してその意義を理解し、その成果を発揮できたと思う。
●その他
九大山岳部では雪渓をダッシュで下るのが慣例となっているらしく、私もダッシュで下るよう努力したがあまり速く下れなかった。それに対し安倍さんは速かった。しかし、OBの柳さんはもっと速いらしい。私も雪渓を高スピードで下れるよう頑張りたい。
 
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